7月お題SS『二人暮らしの夜』(後編)

こんばんは
7月のお題SSに参加させていただきました。


2015年7月お題SSズ募集詳細

主催幹事:
牛野若丸さま

お題発案者:
牛野若丸さま

お題:
「虫」
「百合」
「器」(解釈自由)
(3つの中からいくつ選んでもOK)

文字数:
4000字以内

昨日、拍手をくださったみなさま、ありがとうございます!
引き続き後編です。
よろしくお願いします<(_ _)>




「出ていく」
 昼過ぎに起きてきた直樹が、ソファーに座ったタイミングで告げた。大きなあくびをして片手で髪をかきあげ、なんで、と言う。
 手の中の星形のピアスをぎゅっと握りしめる。直樹に返すべきか、黙っておくべきか、わからない。
「もしかして、これが原因?」
 こちらに向けてひらいた直樹の手のひらには、星形のピアスがあった。思わず自分の手の中をたしかめる。手品みたいにこっちのものがあっちに瞬間移動したのかと思ったが、それはちゃんと自分の手の中にもあった。
「これさ、昨日帰り道に露店で買ったんだよ。恵吾、月とか星とか好きじゃん? だから喜ぶかなって。よく考えたらあなた、ピアスなんて開けてないんだけど。まあ俺酔ってたから」
 なんだ。これは直樹が自分で買ったものだったのか。
 一晩眠らず考え続けてきたことが突如ぷつんと切れて、気が抜けた。空っぽになった頭に、どうして直樹は買った左右のピアスを別々に持っていたのだろう、という疑問が浮かんだその時。ふいに直樹がゆらりと立ち上がった。怒りを秘めた表情でおれを見下ろしている。
「出ていくってなんだよ」
「あ」
 一瞬、ついさっき自分で伝えたことを忘れていた。
「俺、実は恵吾のこと試したんだよな。ワイシャツのポケットからこのピアスが出てきたら、恵吾はどんな反応するかなってさ。ほら、よくあるじゃんそういうの。彼氏のシャツからピアスとか、キャバクラの名刺とか、口紅の跡とか」
 じりじりと壁際に追いつめられる。もう直樹の怒りは隠されず、眉間のしわには不機嫌がありありと見えた。
「恵吾は普段から俺がわがまま言っても怒んないし、時々、寝る前とか我慢してるみたいに苦しそうな顔するの見るし。なに考えてんのかなって思ってたけど、なんでそこで出ていく、になんだよ。ねえ、なんで聞かねぇの? このピアスなにって。誰のって問いつめろよ」
「だって」
「だってなんだよ」
「こわくて」
 そんな大胆な行動に出ることで、もめて、けんかになって、直樹がこの二人の空間にいることをめんどうに思ってしまうことが怖かった。日々どんなに不満の泡が膨らみ増え続けても、感情を爆発させて平穏が揺らぐことより、一秒でも長く安寧な時が続くことを望んでいた。
「こわい?」
「直樹に嫌われるのが」
「それで出ていくっておかしくない?」
「嫌われるよりはマシだから」
「なんだそれ」
 不機嫌そうにしてた直樹が思わずって感じで噴きだす。おれにとっては笑いごとではないのだけど。
「俺はさ、同棲を始めた一年前に、恵吾とはこのさきずっと一緒にいるって決めてんの。だからショックなんだけど、簡単に出ていくとか言われたら」
「それは、ごめん」
「そうだそうだ、反省しろよ」
 あごに手を添えられ、うつむきかけた顔を起こされる。目を見てもう一度、ごめんなさい、と伝えた。
「だから不満でも希望でも、思ってることはこれからは口に出して言うことな」
「それでもし直樹に嫌われたら?」
「嫌わねーって。むしろ黙っていられたほうが嫌になるわ」
「本当だね、それ」
「ほんと。だからためしに言ってみ? 今思ってること」
「今は……」
「嘘はなしな」
 先手を打たれてひるむも、この近い距離で嘘はきっとすぐばれてしまうと思ったので。
「キス、されたいって思ってる…………、って今思ってること言えってきみが言うから!」
「なんで怒んだよ」
 こんな時にすごくくだらないことを考えてる自分にイライラしつつ、にやつく直樹にも腹が立った。
「いいじゃん、してあげる」
「やっぱりいらない」
 唇を寄せてくる直樹の頬を軽く張って、追いつめられた壁際からすり抜けた。熱い顔を片手で扇ぎながらキッチンに向かう。昼食用に昨日作った直樹のぶんの青椒肉絲をレンジに入れ、そうめんの湯を沸かし始めていたら、風呂に入ると言う直樹がなぜか両方のピアスを持ってリビングを出ていったので、いったいあれをどうする気だろう、としばらくしてこっそりあとを追ってみた。
 星形のピアスは、玄関の靴箱の上にあった。カギ入れに使っている、夜空をひっくり返して縮小したような深いブルーの半球の器の中に、小さな星が二つ、寄り添うように並んでいた。
「恵吾ー」
「なにー?」
 新しい石けん取って、という声がして、そういえば、だいぶ小さくなっていたことを思い出しながらバスルームへ向かう。箱から出した裸の石けんを、腕の細さぶんだけひらいた扉から差しいれる。湯に濡れたぬくい手のひらに石けん越しに触れた時、さっきいったん押しこめた欲望があふれてきて思わず直樹、と呼んでしまった。
「ん?」
 湯気にこもった声が優しくて、だから勇気を出してもう一度伝える。
「やっぱり、お風呂出てからキスして?」
 扉を閉めて、石けんのついた手を洗面台で洗う。鏡に映る自分の顔がめちゃくちゃ赤い。
「キスだけですまないけどいい?」
 バスルームの中からにやけていることがまるわかりの声がしたので、鏡の中の自分と目を合わせて笑ってしまった。






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恵吾はラッキーボーイ

拝読させていただきました。

日常の出来事をあたたかく、爽やかに描く――という芸当が、自分にはなかなかできません。
…ですので、こういう素直な作品を読むと新鮮なのと同時に、ひねくれてしまった自分の内面を鏡に映されているような心地がします。

相手に――特に特別な感情をいだく相手に向かって、きちんと自分を伝えたり表現することができない恵吾。
若い時期(いや、いい歳になっても…)には、ありがちですよね。

ひと昔前ですが、「眼の前にいる相手にわざわざメールを送る人がけっこういる」と聞いてびっくりしたことを、ふと思い出しました。

ものおじしないで自分の気持ちを伝えられるようになる分岐点=きっかけは人それぞれですが、繋がりを深めていける形で恋人から機会を与えられた恵吾は、本当にラッキーボーイ。
身体の関係はあっても、日常のささいなコミュニケ―ションすら取ることのできないカップルが、リアルにはたくさんいます。

このSSは何も考えずにさらっと読んでしまうと、なんでもない日常のお話になってしまうのかもしれませんが、そういった現実をふまえた上で読むと、「ほっこり」「爽やか」だけではない奥深さを感じます。
人生のどん底や辛い別れを経験していると、せつない痛みをともなったりもして――。

こういう日常の一部分を切り取った作風の小説は、もしかしたらある程度の年齢になると本当の良さ、面白さがわかってくるのかも――と感じています。

同時に(いまは図太いおばはんになってしまいましたが…:笑)、若かりしころの繊細さ、初々しさを思い出し、自分が失ってしまったものを振りかえる機会をあたえてくれる作品でした。

ほっこりラブ、楽しませていただきました。ありがとうございます。


感想文がほんと苦手なもので、お目汚しにしかなってませんが、ご容赦を……。

Re: 恵吾はラッキーボーイ

倉田さまへ


SSをお読みいただき、コメントまでありがとうございます<(_ _)>

拙作をすごく深く感じ取ってくださったようで、感無量です;;
でもそれはきっと倉田さまの見る目が美しいからだと思います。
わたしはそこまで深く考えず書いていましたので…^^;

恵吾はたしかにラッキーでした。似たタイプの人が相手だったらきっとうまくいかなかったですよね。
このさきも二人が空気のような存在にならず、大切な気持ちをお互い伝え続けていけたらいいな、と倉田さまの感想を読んで感じました^^

SSは、日常系を書いているのにわたしの話には地の文が多く軽やかさがないので、会話でつなぐ練習をしようと思って始めました。
それが倉田さまの感じた爽やかさにつながっていたらいいな~と思ったり(違うかもですが笑)

お目汚しだなんてとんでもない!
あたたかいご感想、本当に嬉しかったです。

またSSにも挑戦しますので、ブログのぞきにきてくださいね♪

プロフィール

りんこそ

Author:りんこそ
宗川倫子(そうかわりんこ)
BL小説投稿生活中。ブログ内の文章の転載を禁じます。

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